高峰譲吉を主人公とする映画「さくら、さくら」が間もなく公開
高峰譲吉(加藤雅也)と妻キャロライン(ナオミ・グレース) (C)2010「さくら、さくら」製作委員会
明治を代表する化学者高峰譲吉を主人公とする映画が、間もなく全国で公開されます。4月、5月に各地で先行上映されたのち、6月19日(土)、神奈川県川崎市の川崎駅脇の小ホール「ラゾーナ川崎プラザソル」での上映を皮切りに全国上映が開始される予定とのこと。日本科学史に関心のある方には、お勧めの映画です。
(内容紹介)映画は、金沢の救急病院での場面で始まります。緊急手術に使われた止血剤を担当医が「エピネフリン」というのに、「アドレナリン」と呼ぶべきだと女性看護師が反発します。看護師は主人公高峰譲吉の妹の曾孫という設定で、彼女が先祖の譲吉の事績を調べようと思い、高岡の地を訪れます。看護師役の女優(国分佐智子)は、譲吉の妹役も務めます。
映画は、その妹がまだ幼女だった明治初年にもどり、金沢藩のもと御典医の家、高峰家で、長男譲吉(加藤雅也)が家業の医学でなく化学を学びたいと父(夏木陽介)に言い出す場面になります。このあと、譲吉の生涯を追っていきます。譲吉の工部大学校在学、イギリス留学からの帰国後の農商務省での化学者としての活動、アメリカのニューオリンズの万博出張と将来の妻キャロライン・ヒッチ(ナオミ・グレース)との出会い、万博で買い付けた過リン酸肥料の日本への導入の苦労と大日本肥料会社設立、キャロラインとの結婚と彼等の日本生活での悲喜劇、キャロラインの母(KOTA)の後押しによる一家のアメリカ移住、ウィスキー醸造業への参入と挫折、タカジアスターゼの開発とパーク・デイヴィス社との交渉、日本から来た助手上中啓三との協力による副腎髄質ホルモンの結晶化(アドレナリン)、晩年の日米親善事業のためのワシントンへの桜の導入というように、映画は譲吉の生涯と業績のエッセンスをよくまとめています。
映画のタイトル「さくら、さくら」は、このワシントンに見事な桜並木をもたらした高峰の最後の業績にちなんでいます。映画では、桜をアメリカに移植するに携わった植木職人が出てきますが、製作した市川徹(とおる)監督が、日大農獣医学部林学科を卒業していることも関係があるかもしれません。映画は、二時間を超え内容的にも盛りだくさんにもかかわらず、コミカルな場面もあって映画として面白く、最後まで飽きずに見ることができます。
映画の台詞の半分は、英語です。もともとの台本を出演したネイティヴ達が演じながら修正していったそうで、英語の会話教材に出来そうな見事な会話体に仕上がっていました。譲吉の妻の父親役を、見事な日本を話す日本文学者で東大教授でもあるロバート・キャンベルが演じていました。松方弘樹(渋沢栄一役)、萩尾みどり(譲吉の母ゆき役)といったベテランの俳優たちも出ています。皆さんに、観覧をお勧めします。(梶雅範)
※「さくら、さくら」公式サイト http://sakurasakura.jp/