第4回学会賞

第4回学会賞

2016年7月開催の総会で、以下の方々に第4回学会賞が授与されました。学術賞は菊池好行会員、論文賞は古川安会員に対して授与され,特別賞は「該当なし」となりました。

学術賞

菊池好行会員 Yoshiyuki Kikuchi, Anglo-American Connections in Japanese Chemistry : The Lab as Contact Zone (Palgrave Macmillan, 2013)

選考過程

 2つの著作が候補に推薦され,学術賞審査委員会で,Yoshiyuki Kikuchi, Anglo-American Connections in Japanese Chemistry: The Lab as Contact Zone (Palgrave Macmillan, 2013)が, オリジナリティが十分認められ,影響力のある作品であるということから学術賞に選ばれた。

授賞理由

 菊池好行会員のこの著作は、日本における化学研究の源流を帝国大学となった東京大学の理科大学化学科および工科大学応用化学科に求め、幕末から両学科の初期の活動までを、国内外に所蔵されている膨大な史料を用いて、系統的かつ実証的に解明している。西洋科学の移殖から始まった日本での科学研究の源流については、すでに多数の研究があるが、化学研究に焦点を当て、明治期の錯綜した制度化を整理したうえで、お雇い外国人や、日本人エリートの留学先の教師を対象として、それぞれの化学研究の伝統を明らかにしつつ、日本人エリートの対応を考察している。その結果、明治期日本の化学研究を、これまでの化学史の本流となっている西洋化学史と十分に対応させて論じることができるようになった点は重要である。また、海外の史料を多数用いることで、明治期科学者研究の水準を引き上げたといえる。本書の後半で取り上げられている化学科の桜井錠二、Edward Divers, 応用化学科の中沢岩太、高松豊吉については、留学先の化学伝統の違いだけでなく、それぞれの個性の違いも浮かび上がらせており、人物研究としても意義がある。副題に示されている「接触域としての実験室」という概念については図式的だという見方もある一方で、この概念に基づく作業仮説的な見通しによってこれまで等閑視されてきたCharles Grahamを浮かび上がらせることに成功し、実験室の設計図を史料とするなどプラス面を評価する見方もある。本書の日本語版の出版を求める声もある。以上から、学術賞審査委員会(5名で構成)で全会一致で同書を学術賞に選出し、理事会で承認された。

論文賞

古川安会員「燃料化学から量子化学へ-福井謙一と京都学派のもう一つの展開-」『化学史研究』第41巻(2014): 181-233

選考過程

 学会誌『化学史研究』2012年から2015年(138号から153号)に掲載されたものから,編集委員会より15本が候補として認められ,23名の評議員(全24名中,1人は候補者のため投票権なし)に審査が求められた。回答があったのは14名(全て有効)で,論文「燃料化学から量子化学へ-福井謙一と京都学派のもう一つの展開-」(古川安)(149号・2014年)が最高得点を集め,選ばれた。